研究の背景と課題
近年、日本の救急搬送の需要は増加傾向にあり、2023年には救急車の出動件数が全国で過去最多の760万件を記録しました。一方で、救急業務の現場では依然として紙ベースの記録や電話連絡に依存する状況が見られ、これが病院との調整業務の非効率化や受け入れ決定の遅れにつながるという課題が指摘されています。
この課題に対応するため、広島県では第一期実証実験として2023年10月に東広島市を除く県内全域の救急隊に「NSER mobile」が導入されました。これにより、救急ワークフローのデジタル化と集団ベースの病院前データ収集の基盤が構築され、本論文では、この実証実験で収集されたデータが記述的に分析されています。
研究の概要
目的
「NSER mobile」システムを記述し、2023年10月から2024年12月までに同アプリを用いて収集された広島県内の救急搬送データについて、病院前データ(病院に到着する前の患者情報)を分析すること。
使用データ・対象
-
使用データ: 広島県の救急搬送データ(NSER mobileより集計)
-
対象期間: 2023年10月〜2024年12月
-
対象症例: アプリが使用された147,213件の救急搬送症例
主な成果と知見
-
対象期間中にアプリ導入地域で報告された151,303件の救急搬送のうち、147,213件(97%)で「NSER mobile」が使用されており、日常的な救急業務において高い普及率が確認されました。
-
分析対象の147,213件の内訳は、通常の救急搬送が129,855件、心肺停止モードでの搬送が1,988件、病院間転院搬送が15,370件でした。
-
通常の救急搬送患者の年齢中央値は75歳であり、65〜84歳が39%、85歳以上が26%と、高齢者が大きな割合を占めることが明らかになりました。
-
病院選定において、66%のケースで最初に要請した病院に受け入れられ、1病院あたりの交渉時間の中央値は5.2分でした。
-
文字入力の手間を省く光学式文字認識機能(OCR)は全体の74%のケースで使用されており、現場の負担軽減に寄与している可能性が示唆されました。
本研究の意義と今後の展望
本研究により、「NSER mobile」が県単位という大規模な範囲において、標準化された病院前データをリアルタイムで収集する基盤として機能することが実証されました。TXP Medical株式会社は、広島県における第二期実証実験の取り組みを引き続き支援するとともに、本プロジェクトで得られたデータ共有の仕組みを軸に、救急搬送業務の効率化と高度化を目指していくとのことです。
掲載・発表情報
-
掲載誌: Scandinavian Journal of Trauma, Resuscitation and Emergency Medicine
-
掲載日: 2026年8月26日
-
論文タイトル: Population-based implementation of a mobile emergency medical service platform in Hiroshima, Japan
-
著者: Shibata, J. , Goto, T. , Nishida, T. et al
救急医療情報システム「NSER mobile」について

「NSER mobile」は、救急隊が現場で収集する患者情報(バイタルサイン、既往歴、お薬手帳など)をスマートフォンやタブレットからOCR(画像認識)や音声入力を用いて迅速にデータ化し、医療機関にリアルタイムで共有する救急搬送システムです。これにより、受け入れ要請の効率化とデータに基づく救急医療の質向上を支援することが期待されます。
「NSER mobile」の詳細については、以下のリンクをご参照ください。
TXP Medical株式会社について

TXP Medical株式会社は、「医療データで命を救う」をミッションに掲げ、現役の救急集中治療医が立ち上げた企業です。基幹システムであるNEXT Stage ERは全国の大病院100箇所以上(大学病院・救命救急センターでのシェア約50%)で稼働し、救急隊向けのNSER mobileは全国89地域、1200万人以上の人口カバレッジでの運用実績を有しています。
TXP Medical株式会社の詳細は、以下のリンクをご参照ください。